『切り紙』に込めた自然への思い
 切り紙とは、はさみや小刀を使って紙を切り抜き、絵や模様を表現したもので、完成すると1枚の透かし彫りになるのが特徴です。日に透かして見ると、まるで木漏れ日のように美しく、幻想的な雰囲気があります。切り紙は、世界の様々な国や地域に存在し人々の暮らしの中で親しまれてきました。発祥は、はっきりとしたことは分りませんが、一般的には中国の漢代(約2000年前) 植物繊維を用いた製紙技術の発明のころと言われています。

○ 日本の伝承切り紙
 日本の切り紙のなかで代表的なものとして『伝承切り紙』と呼ばれるものがあります。正月神棚に飾るお飾りや御幣などはその一種です。白い和紙で作られ、神仏と人間とを結ぶための白い絆として扱われています。
 伝承切り紙のなかでも最も変化に富んでいるのが『神楽用の切り紙』で、北は秋田から南は鹿児島まで、名称や図柄など地域の特色を見せて分布しています。宮崎県高千穂地方の夜神楽でも、祭場にはおびただしい数の『エリモノ』と呼ばれる切り紙が張り巡らされます。
                          
 
高千穂地方のエリモノ
↑高千穂地方のエリモノ
○ 中国の剪紙
 中国では、民間工芸の一つとして現在でも切り紙が盛んにつくられ、護符として窓や障子に貼る習慣があります。
 司馬遷の史記、西周時代初期の物語のなかに、「剪桐封弟」(青桐の葉を切り抜く)という故事があります。はるか昔人々の暮らしの中には、木の葉や樹皮を切り抜いて神にささげる風習があり、それが切り紙のルーツだと考えられます。現在目にすることのできる最古の剪紙は、南北朝時代の彫金芸術の版下として使用されたものです。
 紙は加工しやすく切り抜くには最適な材料であることから、様々なものの型紙としてつくられていましたが、紙の普及に伴って、農村地帯の人々の暮らしの中で紙工芸として育まれていきました。

 
中国の剪紙
↑中国の剪紙
○ おわりに
 夕暮れ時の木漏れ日を絵に表してみようと思ったのがきっかけで、切り紙を作り始めて10年になります。紙を切り抜くだけの単純なものですが、知れば知るほど、奥深いものなのだと感じています。古代の人々が「樹皮や木の葉を切る」ことで自然に敬意を払ったように、自然と人との関わりについて、もう一度考えてみたいと思います。

 
筆者の作品「切り進み紙版画」
↑筆者の作品
「切り進み紙版画」
松尾 淳一
 <(有)サン緑化 主任>
(09/09/01掲載)
前回へ バックナンバー 次回へ