暑さ寒さも彼岸まで・・・
  このコーナーを担当させて頂いて1年半以上が立ちます。
 季節の移り変わりは植物を通して感じてはいるものの、「原稿を書く」事でさらに早い季節の変化を感じるようになりました。
 まだまだ残暑が続きますが、『暑さ寒さも彼岸まで』。今月が過ぎると少しずつ涼しい季節がやってきますね。
 現場での作業も随分動きやすくなってきたのではありませんか。

 「彼岸」とは煩悩を脱した悟りの境地の事で、煩悩や迷いに満ちたこの世をこちら側の岸「比岸」(しがん)というのに対して、向こう側の岸を「彼岸」という。(百科辞典より)ことなのだそうです。
 
 24節季の1つで秋分の日、太陽の黄経が180度秋分点に達した時で、「春分の日」と同じようになり、この日を境に昼の時間が少しずつ短くなります。
 丁度9月23日頃にあたり、夏が終わって秋になるのですね。
 でも、春の彼岸と秋の彼岸、状態は同じはずなのに随分気温は違うようですね。「暑さ寒さも彼岸まで」ってどこからきたのか?
 気象キャスターの倉島さんという方が書かれた本の中に答えはありました。
 
 東京を例にとると、春分の日は日中の平均気温9℃、秋分の日は22℃で
 13℃も違う。・・・・・(略)春分と秋分の日の太陽の照らし方は同じはず。
 気温が太陽の照らし方によって直ちに決まるものなら、気温も同じはずだ。
 これほど違うのは、地球を取り巻く空気が暖まったり、冷えたりするのに
 時間がかかるからである。「朝晩めっきり涼しくなって」は秋の彼岸で
 「日中はようやく暖かくなってきて」は春の彼岸なのだ。

 答えになるかどうかはさておき、だから「暑さ寒さ・・・」というのですね。季節を表す一番分かりやすい言葉かもしれませんね。
 俳句の季語では秋分の日を越えると「短夜(みじかよ)」から「秋の夜長」になるのですよ。日本人のもつ素敵な言葉ですね。
 それともう一つ疑問があります。
 「入梅」「梅雨明け」「寒の入り」「寒の明け」「彼岸の入り」でも「彼岸の明け」はありません。なぜかな? ・・・調べました。これも倉島さんの本の中に書いてありました。
 
最初に書いた、私たちのいる場所は「比岸(しがん)」。かなたの岸は「彼岸」で悟りの境地であり、比岸は煩悩(迷い)の世界です。
 「お彼岸」の本来の意味は「悟りの境地」に到達することであるから、そこから先が明けてしまう事はないのだそうです。
 煩悩の中で人の一生は意味があるのだそうです。よって「明け」はないのかもしれません。  (「ちょっと使えるお天気知識」倉島厚著より)
 彼岸は春分、秋分ともに太陽が真西に沈むので西方極楽浄土を求める便宜として彼岸会を行い、諸寺は仏事を修めます。
 春には牡丹餅(ぼたもち)、秋は御萩(おはぎ)と季節の植物を呼び名にした食物をお供えし仏を供養し、先祖を祭り墓参りなどを行います。


 植物の秋を表すとき、「秋の七草」という表現をする事があります。
 「春の七草」は7種の野菜を刻んで入れた粥を食べる事で、邪気を払い万病を除く占いとして食べられていましたが、「秋の七草」は特にイベントごとはなく、秋の野に咲く姿を楽しみ、短歌や俳句を詠む事が古来から行われていました。摘んで食べたりするのではなく、眺めて楽しむものです。
 歴史は古く、一千年も昔から私達は受け継いでいるのです。

秋の野に咲きたる花を指折り(およびおり) かき数ふれば七種(ななくさ)の花
萩が花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花(おみなえし)また藤袴 朝貌(あさがお)の花

 万葉集の山上憶良(やまのうえのおくら)が、日本の代表的な秋草を詠んだ事が初めとされています。
 この中の「あさがお」はキキョウ説やムクゲ説、ヒルガオ説とあります。
キキョウ説が一番多いようです。
 また江戸時代に入るとヒオウギ、オシロイバナ、リンドウ、ゴジカ等外来種なども取り入れられたりしています。
 その後「新七草」として、ハゲイトウ、ヒガンバナ、ベゴニア等があげられた事もあったそうです。

 様々な七草がありますが、万葉集の秋草に沿って「秋の七草」を挙げてみましょう。

萩萩(ハギ)
万葉の時代から、秋は「萩」となっていたようです。新芽はお茶、葉は家畜の餌、枝はほうきや炭俵、花は染料。
荒地に生えるパイオニア植物。放牧地や山火事の跡に一面に生えることがあるそうです。



ススキ尾花(オバナ→ススキ)
尾花はススキの花穂が出るときの呼び名です。
茎や葉は茅葺き屋根の材料として欠かせない植物です。家畜の餌にもなります。
根茎は解熱や利尿として使用します。穂は豊作祈願にも使用されます。



葛葛(クズ)
どこでも見る事ができるクズ。
根は葛粉として使用します。
根は干したものを葛根として用いられています。
近年は土壌保全植物として砂漠化緑化や堤防決壊防止に利用されているようです。



撫子撫子の花(なでしこのはな)
淡いピンクの花を付けます。
常夏との別名もあり夏から秋に花を咲かせるところから付いたとか。
源氏物語に巻名の常夏はナデシコを指します。




女郎花女郎花(オミナエシ)
切花として用いられるが、茎等には腐敗臭があります。
夏まで葉や茎が成長し、その後花茎を伸ばし開花します。
漢方として利尿や排膿に用いられています。



藤袴藤袴(フジバカマ)
源氏物語の藤袴の巻に、夕霧が玉鬘(タマカズラ)に贈る花で登場します。
茎や葉は生の時は無臭ですが、乾燥をさせると桜餅の葉のような芳香がします。
川原などの自生地が少なくなり、現在絶滅危惧U類に指定されています。



桔梗桔梗(キキョウ)
山上憶良が詠んだアサガオ。アサガオの渡来は平安時代なので万葉の時代には存在してないようです。
現在はキキョウが定説になっています。
生薬として鎮痛、解熱に用いられています。
自生株は殆ど見る事はありません。
絶滅危惧U類に指定されています。

     (写真は植物図鑑より)

 さて、皆さんはいくつ覚えていましたか?
 学生の頃以来かもしれませんね。
 今回季節のテーマで取り上げてみましたが、ススキやハギ、クズ以外は中々お目にかかれる植物ではない事に気づきました。
 ナデシコ類は園芸種では沢山ありますが、山野で見られるものは極わずかしかないようです。
 時代と共に生活様式が変わり、私達の周辺もどんどん様変わりをしています。
 もちろん、生活がし易くなることは良い事ですが、秋の日本の原風景は失いたくない景色の一つです。
 秋の七草、わずか数種の植物ではありますが、次世代へ伝えて行かなければならない一つですね。
 
 過ごしやすい季節の到来です。山歩きなどして、「秋の七草」を探してみては如何でしょう。いくつ見つける事が出来るでしょうか?



御園 和穂

(09/09/01掲載)

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