ヒガンバナ
 例年9月は厳しい残暑が続き、台風が多く来る季節です。それでも秋の彼岸、秋分の日をさかいに秋らしくなってきます。
 今年も暑い夏が続き、春から咲き続けた植物が入れ替わります。
 春についでこれから多くの花を見られる時期になります。
 短い秋を楽しんでみましょう。

 どんなに天候の変化があっても、この時期がくると必ず咲き始めるのがヒガンバナ。 今回はヒガンバナをご紹介します。

 ヒガンバナ 学名:Lycoris radiate  ヒガンバナ科 ヒガンバナ属
 多年草の球根植物(鱗茎)※です。開花時期は9月中旬から下旬にかけ、原産地は中国です。

   ※ 鱗茎(リンケイ)  球根とは根、茎、葉の一部に養分がたまって膨らんだ貯蔵器官の事を指します。
       鱗茎はタマネギのような茎に短縮した葉が重なりあい層状になっているものです。
       (ヒガンバナ、チューリップ、ニンニク、ラッキョウなど

 名前の由来は「秋の彼岸頃に開花する」ことから名づけられたと言われています。
 彼岸のころ、赤く燃えるような花はとても印象的で、なんと的を得た名前なのでしょう!
 また、別名がとても多く、「曼珠沙華(マンジュシャゲ)」「シチジバナ」「シビトバナ」等など。1000を越える名があるそうです。

 北海道から琉球列島まで分布が確認されているようですが、日本には自生種はなく中国から入ってきたものが帰化したそうです。
 ヒガンバナの渡来説は様々で、稲作の伝来(5世紀ごろ)とともに、土に鱗茎が混入してきて広がった、とか、海流にのってプカプカやってきた(でも、球根は塩分を嫌う)とか、ユーラシア大陸と日本列島が陸続きで、球根が分球しながら増えた、等様々です。
 万葉集の中に「路の辺の 壱師の花の灼く 人皆知りぬ わが恋ふる妻」
 柿本人麻の歌の中の「壱師の花(いちしのはな)」はヒガンバナであったと言われていますが、その後、鎌倉時代以前の書物には登場しません。
 その後は江戸時代に入ってからになります。
 渡来説の中には球根の食用目的での導入もあるのですが、全草有毒で、特に鱗茎(球根部分)にアルカロイド(リコリン、ガランタミン、セキサニンなど)を多く含み、誤食した場合は嘔吐・下痢、酷い場合は中枢神経を犯し死に至る場合もあるそうです。
 鱗茎(球根部分)は澱粉を多く含みます。
 日本古来の栽培植物はセリやミツバなどで澱粉が少ないものが多く、江戸時代にサツマイモが導入されるまでは、ヒガンバナの球根を食べていたようです。
 有毒のリコリン等は水溶性であるため、長時間水にさらす事で無害化が可能になるようですが、救餓植物として利用する場合であっても、厳重な注意を払わなければならないようです。
  (※決して食用としては試して見ないでくださいね)
 ヒガンバナは水田の畦(アゼ)や、墓地などで多く見られます。
 このような場合は人為的に植えられたものと考えられます。
ヒガンバナのもつ有毒によって、モグラやネズミ、虫類など田畑を荒らす動物が避ける(忌避)ように、また球根がつまって咲くことから畔の補強であったとも言われています。
 墓地などでは虫除けや土葬後、死体を動物によって掘り荒らされる事を防ぐためだとか。
 山間部でも咲く姿が見られますが、多分その昔人里であった証拠なのではないでしょうか。
←ヒガンバナの球根
 ヒガンバナの球根は(日本に存在しているもの)三倍体といって、雄株・雌株の区別がありません。よって、種子による繁殖は考えられない事から、分球によるものだと思われます。
 人の手によってあちらこちらへと株分けされたのでしょう。

 前述でヒガンバナは別名が多い、と記しました。たまたま水田の畔や墓地などで多く見かけることから忌み嫌われ、不吉な花と言われていた事もあるようです。ただ、忌み嫌われる事だけで別名が多く残るのはおかしいですよね。
 有毒性が強く、ある時期に一斉に赤い花を咲かせることから、少し不思議で、毒に注意を呼びかけるために、各地で独自の名前がついたのかもしれません。
 好まれては無かったようですが、人間との関わりは深かったのでしょう。
 一方、海外では園芸品種が多く開発され、花弁が赤以外に白や黄色などの物もあります。 マジックリリーやスパイダーリリーと呼ばれ、珍重されているようです。
 日本でも庭植えや鉢植えで楽しむ方も増えてきたようです。

ショウキスイセン

シロバナヒガンバナ
 ヒガンバナは花が印象的です。
花はよく知っていても、葉の存在はあまり知られていません。

←ヒガンバナの葉(植物図鑑参照)
 花が終わると暫くして、葉が出てきます。
冬を越して春を迎えると枯れてしまいます。
 冬の間、球根に栄養を蓄え、春〜夏の間休眠し、時期がきたら花を咲かせます。
 なんとも不思議な植物です。
 「葉みず花みず(ハミズハナミズ)」という別名もついています。 葉はノビルやアサツキによく似ています。
 これも毒性がありますので、決して口にはしないで下さいね。

 今回はヒガンバナをご紹介しましたが、育て方は至って簡単です。
 球根を手に入れるのは7月中旬くらいからです。
 多分、原種のヒガンバナそのものが美しかったため、多くの園芸品種は出てこなかったのでしょうが(不気味な花だったのかもしれませんが・・・)最近ではとても綺麗な園芸品種が増えています。
 ヒガンバナという名ではなく、リコリスという名で出ています。
 一般的には地植えしますが、鉢植えでも大丈夫。
 球根が隠れる程度で植え付けをします。
 秋に花を咲かせた後、葉が出て冬を越しますが、日当たりの良い場所を好みます。
 ただし、黄色い花を咲かせるタイプは冬が少し苦手ですので、保温のために腐葉土を厚さ1cmほど球根の上にかぶせてあげると良いですね。
 葉が枯れて休眠期間、鉢植えの場合、根は生きていますので湿らす程度の水遣りはしてあげてください。
 早い品種で8月から開花します。大半は9月の中旬頃です。
 また、ヒガンバナ(リコリス)は球根が込み合ってくるほうがよく花を咲かせます。株分けも暫くは必要ないようです。

 以前は人里付近でひっそりと咲いていたヒガンバナも、現在では見方が少し変わり、「季節の美しい花」になったようです。
 北九州地区では白野江植物公園や築上郡にある正光寺の白いヒガンバナが有名です。

正光寺のHPより

白のヒガンバナ、3000本が植えられているそうです。
30年前に住民の手によって城井川の河川敷から分球をして増やしていったそうです。
白のヒガンバナはとても珍しいので、一度は見ておきたいですね。

「暑さ寒さも彼岸まで」暑かった夏に終わりを告げて、やっと凌ぎやすい季節の到来です。
少し涼しくなってきたら、ヒガンバナが咲いている山里へ足を運んでみては如何でしょう。 短い季節の花が楽しめると思います。


御園 和穂  

(11/09/01掲載)  

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