本格的に寒い季節の到来です。
そろそろ、紅葉も見ごろですね。でも、美しい葉も少しずつ落としながら冬への準備も進んでいるようです。
そんな中で蕾を膨らませピンクの花を咲かせ始めたサザンカを見つけました。
そして年を明けるとツバキが咲き始めます。花の少ない季節の彩りです。
今回はツバキ類について少しお話してみましょう。
ツバキ:ツバキ科ツバキ属の植物の総称です。一般的にはツバキ=ヤブツバキ、を指すようです。
学名:Camellia japonica(カメリア ジャポニカ)和名:ヤブツバキ 英名:Camelliaです。
その他にはサザンカ(Camellia sasanquq)、チャノキ(Camellia sinensis)などもツバキ類の仲間です。
照葉樹林の代表的な樹木で日本原産の樹木です。チャノキに関してだけは文献も少なく原産地が中国南部説もありますが確かではないようです。
ヤブツバキの原種は南西諸島から青森県夏泊(ナツドマリ)半島くらいまで分布し、ツバキ類の自生地の北限です。
古事記では「都婆岐」、日本書紀では「海石榴」の文字が出てきます。中国の隋の王朝が詠んだとされる詩の中でツバキが「海石榴」として出て来るようですが、海という文字からも分かるように日本から来たものを意味していると考えられています。ただし定かではないので国際的には認められていません。
また、「椿」の文字としては万葉集で登場します。
「ツバキ」の由来は諸説あり、光沢があるという古語から「艶葉木(ツヤハキ)」、
葉に厚みがあるので「厚葉木(アツハギ)」落ちた花が、刀の鍔に似ていることから「鍔木(ツバキ)」など様々です。
現在は「椿」とい文字で知られていますが、木辺に春、春に咲く花としてつくられたようです。
ツバキは花が美しく可憐な姿から茶花としての評価が高く園芸品種が多々作られました。
18世紀に植物学に詳しかったゲオルク・ジョセフ・カメルがフィリピンでこの種を入手しヨーロッパへ紹介。その後、リンネがカルメの名を付けたとされています。
ヨーロッパへ伝わると、冬に常緑で日陰でも花が咲くと言う事が大変好まれ大人気となったようです。ヨーロッパの美意識に合い、19世紀には園芸植物として流行し、小説「椿姫」、その原作のオペラには主人公の好きな花として登場しています。
ツバキの花びらはサザンカのように個々では散らず、萼の部分から落ちます。
ヤブツバキの花
サザンカの花
その姿が「首が落ちる様子」に似ているため、武士の家ではツバキを嫌ったという言い伝えもあります。また、馬の世界でも「落馬」を連想させるために競走馬には「ツバキ」という名は避けられているようです。また病人の見舞いの品としても避けられた一つでした。
しかし実際17世紀には品種改良が進み、17世紀後半には世界で初めての「椿園芸品種」を解説した書物が出版されていたようです。
ツバキは材木としても良質とされており、木質は堅く緻密で摩擦にも強く磨り減らない特徴があるようです。
成長すると20m程になりますが、日本では大木の殆どが伐採され、現在は屋久島から切り出されているようですが入手は困難なようです。
ツバキの実
また、日本酒の醸造の際には木灰を必要とするのですが、ツバキの木灰は最高級とされているそうですが、こちらも入手は困難のようです。
また種子は絞って油をとります。高級食用油、整髪料として使用されています。ヤブツバキから取れる油はかなり高価なものになるようです。
観賞用としてのツバキは古来から親しまれ、現在京都の龍安寺には室町時代のツバキが残っています。
ツバキは他家受粉で結実するため変種が多く、そのため品種改良が盛んに行われたわけです。
ヤブツバキから変じて、江戸、肥後、加賀、京都の公家などが好み沢山の改良種ができました。先にも書いたように茶花としても人気が高く、冬場の炉の季節は茶席がツバキ一色になるほど使用され「茶花の女王」とまで呼ばれているようです。
オトメツバキ
御前の雪
緋乙女
出雲大社
伊豆日暮里
様々に品種改良された
ツバキ類。
(植物図鑑より)
数多くの種類があるので、代表的な品種をあげてみました。
上記に述べたツバキ以外にはユキツバキ、これは豪雪地帯適応型変種で、ヤブツバキに比べ枝がしなやかで、花弁が水平に開きます。雪がのっても潰れないように変化したようですね。
(←ユキツバキの花)
羽衣は八重で蝶千鳥、蜀紅は一重です。蜀紅は白い斑点が入ります。何とも雅な姿です。
江戸より少し下り、名古屋を中心に育成されたツバキが尾張ツバキです。
羽衣(ハゴロモ)
蝶千鳥(チョウチドリ)
蜀紅(ショッコウ)
紅妙蓮寺(ベニミョウレンジ)
関戸太朗(セキトタロウ)
小中輪の茶花向きの品種が多く、一重や筒咲きが特徴のようです。
東山植物園には「椿園」があります。散策するのも楽しみの一つですね。
富山や越後はユキツバキの自生地です。ヤブツバキとユキツバキの交配種が古くから栽培されているようです。
代表的な作品として大日の曙(ダイニチノアケボノ)など
淡いピンクの一重咲き。
九州では肥後、熊本で多くの品種が出ています。
肥後の大名細川家にて育種、保存され門外不出の品であったらしいが現在では苗木も出回っているようです。肥後ツバキは愛好者も多く盆栽等で楽しまれているようです。
花は大輪で一重、梅蕊(バイシン)咲きという花型で、花の中心から放射状におしべが広がり、花色と黄色の対比が美しいとされ、肥後六花の一つです。
新大田白(シンオオタハク)
晴姿(ハレスガタ)
紅丹頂(ベニタンチョウ)
肥後六花とは細川重賢公のころ、藩の薬草園に植えられた六種類の植物です。(写真は図鑑より参照)
それはツバキ、シャクヤク、ショウブ、アサガオ、キク、サザンカです。
他の地域のツバキと少し趣きが異なり、繊細と言うよりかは艶やかな雰囲気のツバキです。
現在は熊本城「竹の丸」肥後名花園で観賞する事が出来るそうです。
調べていくと限りなく品種が多く、地域によって姿かたちが異なり、魅了されてしまいます。
他では黄色いツバキなどもあるようです。中国南部やベトナムに自生するそうです。
ツバキ属の植物は良く似ているものが多く、品種改良も進んでいる為見分けにくい難点もありそうです。
サザンカやチャノキも良く似ていますが、見分け方として、ツバキは花びらが個々で散らず萼の部分から落ちるがサザンカやチャノキは花びらが個々にちります。またツバキは花が完全に開きませんが、サザンカは殆ど完全に平開します。最後にツバキは葉の付け根に毛が生えてませんが、サザンカは葉の付け根にうっすらと毛が生えています。
原種に関しては見分けやすいですが、園芸品種は多様性に富むため判別は難しいと思われます。見分け方は参考にして頂ければ・・・と思っています。
ツバキのご紹介をしましたが、日本原産の樹木として大切に育てていかなければならないものの一つですね。
当たり前のように植えてあり、よく見かけるけれど、あまり目に留まらない樹木です。来年は花が咲く頃、ゆっくり愛でてみたいと思います。
もちろん害虫の発生する前の話ですが・・・。
御園 和穂
(09/12/01掲載)