桃の節句
 一年で一番寒い季節が終わり、2月のカレンダーをめくった頃から「春!」を感じませんか?
 日に日に暖かさが増し、冬ごもりはおしまいのようですね。
 
 3月といえば「桃の節句(ひな祭り)」。今回はこの節句に飾られる桃の花・ハナモモのご紹介です。
 なぜ「ハナモモ?」なのでしょうか。桃の節句(ひな祭り)の由来に合わせて少し説明しましょう。
 桃の節句の起源は、平安時代の貴族の間で5つの節句行事(人日「七草がゆ」、上巳「桃の節句」、端午「端午の節句」、七夕「七夕祭り」、重陽「菊の節句」)が行われており、各季節の節目に薬草を摘み、その薬草で体の邪気をお祓いし健康と厄除けを行っていたそうです。
 その一つの「上巳(ジョウシ)の節句」が後の「桃の節句」の始まりとされています。
 その後、宮中で行われていた紙人形遊びの「ひいな遊び」と結びつき、自分の災いを紙人形に引き受けさせ川へ流す「流し雛」へと変化していったようです。これが「ひな祭り」の起源とも言われています。
流し雛
流し雛
お雛様
 
 室町時代に入ると、上巳の節句が3月3日に定着し、紙のお人形から豪華なお雛様となり、宮中ではお祝いが行われるようになったそうです。
 宮中から武家へ、商家や名主へと広がり、お雛様も豪華な物へと変化したようです。

柳川のさげもん
 ちょうどこの時期に桃の花が咲き、桃には魔よけの力があると考えられていた事から、節句を祝うにはふさわしい花として「桃の節句」と呼ばれるようなったそうです。
(桃の魔よけとは:命を延ばすという西遊記の蟠桃(バントウ)、古事記の黄泉の国から逃げ帰ったイザナギを救った桃、など霊力がある花木とされていた。)
 桃の節句には雛人形を飾り、桃の花を活け、生まれた子供が健やかで素晴らしい女性に成長して欲しい、また災いが降りかからないようにという願いを込め、今に伝えられてきたようです。
 桃(ハナモモ)学名:Prunus persica バラ科、サクラ属。樹高3〜8m程度。
 開花は3月10日前後から4月末頃までで、桃の節句(ひな祭り)に添える桃は温室内で育てた物になります。
実際の開花はもう少し後になりそうです。
 モモは中国原産の落葉性樹木で、現在多くある園芸品種はほとんどが日本で品種改良されたものです。
花を観賞する「ハナモモ」と「果樹(食用のモモ)」として利用するものに分けられています。
 ハナモモは花色や姿の美しい品種が多く、桃色を基本として赤・白・紅白、菊の花形をした物などがあります。
もちろん実はなるのですが、果樹のモモのように大きくはならず、食用には向いていません。
 一般的に見られるハナモモです。
幹はサクラと同じような横線が入っていて、ツヤがあり、枝に沿って沢山の花をつけます。
 その昔、実が赤い事から「燃実(もえみ)」と呼ばれ、言葉が変化し「モモ」になったとか・・・。
 花の咲いていない時期には杏などとも間違えてしまいますので、開花時にきちんと確認しておかないといけませんね。
 観賞用のハナモモとして品種改良が行われるようになったのは江戸時代に入ってからです。
 現在もハナモモの品種改良はあまり進んでなく、栽培されている園芸品種は江戸時代に作られた品種も多くあります。
 樹の姿は立ち性や垂れ枝性、ほうき立ち性など、背の高くなるものから小ぶりのタイプと様々です。
広い場所、狭い場所など、場所ごとに適したタイプを選ぶ事が出来るので、庭木としても親しまれているのでしょう。
園芸品種を少しご紹介しましょう。

・源平桃(ゲンペイモモ)
白地に紅の絞りが入ります。
大輪の八重咲き。
庭木用や盆栽などで親しまれています。
・矢口桃(ヤグチモモ)
「お花をあげましょ桃の花♪」のハナモモはこの品種です。
直径4〜5cm程度の花をつけます。
淡い紅の中輪タイプ。ほのかな香りです。
・関白桃(カンパクモモ)
白の品種の代表でしょうか。
直径4〜5cm程度の花をつけます。
純白の中輪タイプ。
透き通るような純白な花を付けます。
・菊桃(キクモモ)
菊の花を思わせる独特の花形をしています。
薄い紅色から濃い桃色。
直径3cm程度の小中輪タイプ。
鉢植えなどでも楽しめるようです。

(写真:図鑑等参照)
 様々なハナモモがありますね。

 桃の花が群生しているとつい「桃源郷」という言葉が頭に思いつきます。
桃源郷・・・こんなお話。
 ある日、漁師が山奥の谷川に沿って舟を漕いでいくと、どこまで行ったかは分からないが、突如、桃の木だけが生えていて、桃の花が一面に咲き乱れる林を見つけます。
 その香りや花びらの落ちる様に心魅かれた漁師はさらに奥へと。
 たどり着いた先には微笑みを絶やさず働く村人がいて、漁師を快く迎えいれ、ご馳走をし、漁師から外の世界の様々な話を聞きました。
 村人は戦乱の中、家族や村人と山奥の誰も来たことのないこの場所を探しあて、開拓し、決して外界とは関わりを持たず暮らしているのだそうです。
 漁師は数日に渡り、様々な外の世界の話をし、そろそろ自分の家へ帰る事を告げます。
 村人は「ここのことは誰にも告げないで欲しい」と漁師に伝え見送ります。漁師は帰り道、目印をつけながら川を下り家に戻りますが、あの素晴らしい景色の事を他人に話してしまいます。
 みんなで目印をたどり川を上っていくのですが、どこまで行っても桃の林も村の入口も二度と見つけることが出来ませんでした。
 と、言うお話。
この話、その後、道教の教えや思想などと結びつき、特に「仙人思想」と大きく結びついたようです。
 様々な説はありますが、仙人になるために食べる霊力のある桃の実や、不老不死の仙人の桃などから、桃の林の奥には仙人の住む地があるとされているようです。
 俗世間から逃れた先の理想郷ではありますが、本当にあるのであれば是非一度遊びに行って見たいものです。
 でも仙人になってしまうと、桃ではなく「霞」を食べるのか・・・・。

 お話ではありますが、桃は古来から霊力や不思議な力のある花木として敬われていた事がうかがえます。
 日本においても古事記に桃の記載がありますので渡来した時期はかなり古いようです。
 これを読んで頂けている頃、お雛様を「片付け」ている、もしくは「片付けた」という方もいらっしゃるかもしれません。
 桃の節句の後すぐに片付けないと「嫁に行くのが遅くなる」と言われていますが、これはいつまでもダラダラ飾りっぱなしにしてはいけない、と言う「躾」のようですね。
 地方によっては旧暦まで飾る所もあるようです。
 お雛様を飾り、ハナモモを添えながら歴史や由来に思いを馳せる・・・。
 行事や儀式ではありませんが、言い伝えとして、次の世代へも受け継がれて行って欲しいものです。
 乾燥したお天気の良い日を選んで、片付けてくださいね。

 飾ったハナモモは、花瓶に活けてそのままにしておくと花びらが落ちた後葉が出てきます。
 とても綺麗な花だったので、挿し木にして育てて見たい・・・と言われますが、観賞用の切花の挿し木はとても難しいです。
 挿し木の代わりに苗木を植えて見ませんか。この時期、園芸店などでは苗木が出始めます。植える場所を見定めて苗を購入して見ては如何でしょう。
 もちろん鉢植えでも大丈夫です。大きくなると植替えが必要になりますが・・・。
 路地に植える際の注意点は深く植えつけない事。(樹の寿命が短くなる)
日当たりの良い、水はけの良い場所を好みます。乾燥には強いタイプですから真夏の極端な乾燥を除いては、適度な灌水を(植え付け当初)。その後は自然の天候に任せても大丈夫です。
 剪定は12月〜2月頃、もしくは花が終わった後、枝の切戻し程度に行います。その後伸びた枝に来年花を咲かせます。
 若木は枝を切り詰めても、新しい枝が伸びますが、古い樹になると枝が出にくくなるので剪定は控えめに行います。
 肥料は冬の間(1〜2月)、花が終わった後、8月頃の年3回程度。油かすと骨ぷんを同量に混ぜた物を株から離した場所に、溝もしくは穴を掘り埋めてあげましょう。(苗木の場合:1箇所あたり紙コップ半分程度を3箇所程度)
 苗木から育て、花後に出来る実も植えておくと芽が出ます。
「桃栗三年柿八年・・・」言葉通り3年くらいで花を付けます。
 「あなたの桃源郷」も夢ではないかも〜 知れませんよ!
 
 春の暖かさを感じて、虫が冬ごもりから這い出る時期で「啓蟄」(ケイチツ)もそろそろです。今年は3月6日頃。
 寒さに耐えた草花も大きく成長します。一気に春らしさの到来ですね。
 合わせて、今年はスギ・ヒノキの花粉も大量発生なのだとか。こちらも十分な予防をお忘れなく!

御園 和穂  

(11/03/01掲載)  

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