パンジーとビオラ
 3月11日、東日本で大きな地震と津波、過去最大の災害が起こってしまいました。
 被災された方には心よりお見舞い申し上げます。
 また、一日も早い復興を願っています。


 3月末まで寒の戻りが続きましたね。
 例年に無く寒い日が続き、草花も生長が著しく悪い状態でした。やっと暖かくなってきて、これから盛り返してきそうです。

 今回はこれからが最盛期のパンジー、ビオラを紹介しましょう。
 9月中旬から10月になると、ナーセリーの店頭に多くのパンジー、ビオラが並びます。
 本来は春の花ですが、近年、品種改良や栽培技術が向上し、秋口から冬の間でも多くの花が咲くようになりました。
年々店頭への出荷が早くなってきているような感じですが、個人的には如何なものかと・・・。
 パンジー 学名:Viola X wittrockiana, 別名:Viola tricolor hortensis
スミレ科スミレ属の秋蒔き一年草です。
 ビオラ(Viola)とはスミレ科スミレ属のラテン語名ではありますが、園芸上はパンジーの小輪多花性種をビオラと呼んでいます。
 少し紛らわしいですが、実際にはパンジーとビオラのはっきりした区分があるわけではないようです。
 大まかには、花の径5cm以上をパンジー、花の径4cm以下をビオラとする事が多いようです。(4.5cmはどっちだろう・・・?)
 かつてビオラはパンジーに比べると花色や品種も少なく、あまり重要視されていませんでした。
 その後、特徴として花が沢山咲き、パンジーより早い時期から花を付けるという点に着目し品種改良が進んだ結果、最近では花色も豊富になり、花壇の材料としても多く使われるようになりました。

 同じ黄色で並べてみました。
左と中央がパンジー、右側がビオラです。
見た目の大きさは違いで判断できますが、品種は異なります。
 個別で見せられたら、分からないかもしれませんね。
春先には欠かせない素材の一つです。(コンテナ植え)
 パンジーはヨーロッパに自生するビオラ・トリコロル(別名で記載)を元に野生種の交雑によって生まれたとされています。
 トリコロルとは「三色の」という意味で、日本では「三色スミレ」の名で呼ばれています。
 パンジーの元になった野生種が4つ挙げられます。(一部写真なし)

←ビオラ・トリコロル
イギリスに野生種として分布。
花が白・黄・紫の3色の組み合わせ。
「三色スミレ」の由来はここから来ている。
花径は小ぶりで背が高い。

←ビオラ・ルテア
イギリスに野生種として分布。
自然繁殖し増殖したもの。
クリアな黄色を出す性質。 トリコロルとルテアがパンジーの品種改良の親になっているようです。

←ビオラ・カルカラータ スイス・アルプスに野生種として分布。 花径が大きく、茎は短い。
 最後の一つはビオラ・アルタイヤ。
ロシアの野生種として分布。青色を出す性質を持ち、丸みやフリルなど花びらに特徴があります。(写真:植物図鑑参照)

 これらの野生種を元に品種改良が行われ、現在私達が知っているパンジー、ビオラとなるわけです。
 品種改良の歴史は17世紀ごろ、イギリスではすでに栽培をされていたようです。本格的に栽培が行われるようになったのは19世紀になってからで、フランス、ドイツでも改良が始まり、20世紀に入ってアメリカ、スイスが改良に力を入れたと文献には記載されていました。
 イギリスでは17世紀に「ブロッチ」(花びらの中央に黒い目があるもの)を発見し、フランスでは、色鮮やかな(赤、白、オレンジ、紫など)改良が進み、現在のパンジーが創出されました。
 19世紀の中ごろにはすでに数100種類を越えるパンジーの品種があったと言われています。  長い歴史の中で、花径の大きさや色合い、草丈、花びらの模様等、様々な改良が加えられ、これらによって春の花壇において、パンジー、ビオラは主役としての地位が確立されました。
 日本へは江戸時代には渡来していたようです。  本格的な品種改良は第二次世界大戦後から始まり、歴史は浅いですが、現在では品種改良開発において世界をリードし、大量の種子が輸出されています。
 日本の大手種苗会社のカタログを見ると、毎年100種類以上の品種が掲載されており、各社とも主力商品として力を入れている事が伺えます。
 以前の品種は固定種(種を採取して蒔いても同じ花が咲く)が殆どでしたが、現在ではF1種・一代交配種※(Filial First Generation)が多くみられます。
 各社が親になる株を保持し、その系統間で優れた品種の交配をして種子をとり、苗として(種も)パテント商品として発売されるようになりました。
   ※一代交配種とは、形質の固定した2品種を交配して作出した種または品種で、
    固定することなしに一代目の形質がそろい、雑種強勢原理により、早生、
    わい性維持、耐病性や均一性に優れている。その種を採取して次年度に播種
    しても同じ花は咲きにくいので要注意。

このように、素晴らしい品種は毎年出回るのですが、品種そのものの寿命も短くなり、数年で姿を消してしまうものも少なくないようです。

 パンジー、ビオラの品種改良は「花壇向け」が中心に取り組まれ、色相いや大振りな姿形がハッキリしたものが多かったのですが、特に日本の場合、近年コンテナ栽培や寄せ植え等、身近で楽しむ利用法が増えてきました。
 そのため、ハッキリした色合い等とは異なり、柔らかい中間色や複雑に多彩な品種、花びらに波うつもの等々が主流になっているような気がします。
 花壇での、集団の美しさを表現する場合には適さない反面、コンテナや寄せ植え等では、少しの量で多彩な植付けが楽しめるようになりました。
左上:昨年のジャパン・フラワーで紹介された  イタリア生まれの「ムーランフリルリュージュ」。
 コンテナ植え、切花としても(花茎が長い)香  りが良いそうです。(伊:ファーメン社)
中央:ブロンドシェード(日:タイキ種苗)
右上:みかんちゃん(日:サカタ種苗)
左下:オキル・ブルーシェード(日:タキイ種苗)
 写真はカタログから拝借しました。ブロッチ入りフリルあり、色のグラデーションあり、コンテナや寄せ植え、小さい花瓶にさしても楽しめる花材で、残念ながら花壇向きではないようです。
 
 パンジーの名前の由来はフランス語の『パンセ(Pence'e)、思考・物思い』から名付けられたと言われています。
 花が人の顔に似ていて、蕾が下向きで頭を垂れて物を思う姿に似ている所から付けられたようです。
 また、パンジーは長い間自由思想のシンボルだったともされています。約200年の間、野草を掛け合わせて作られた事から、人道主義者や信教からの自由連盟はパンジーのシンボルを襟ピンや文学の上でも多く用いたと記録されています。
 芸術や文化教養の中でもパンジーは広く好まれて用いられていたようです。
 シェイクスピアの「真夏の夜の夢」の中に、パンジーの花から絞った汁をまぶたに塗り、目覚めた時最初に見たものに恋をするという媚薬。(この時代ではパンジーは三色スミレの事)
←ジョセフ・ルドゥーテの「パンジーの花束」やオキーフの「黒のパンジー」「白のパンジー」等も描いています。
興味のある方は探して見てください。絵画や刺繍、陶芸と様々な芸術の中でパンジー、ビオラは描かれていますよ。
 最近では、種を蒔いて植物を育てる方が少なくなってきました。
 コンテナや寄せ植え、広い庭がもてない事など様々な要因があります。
 また、ナーセリーへ出向けば、少々高値ではありますが沢山の品種の苗が手に入るようになりました。
 日本ではパンジー、ビオラは秋蒔きの一年草として扱います。寒くなる前に植え付け、根を張らせ、冬の間から最盛期の春まで花を楽しみます。
 早くて9月下旬から目にするパンジーは北海道や高冷地の夏涼しい所で育てた物が殆どです。
 種の発芽適温は15〜20℃、真夏の高温時にはとても難しく、熱心な方は様々なご苦労をしながら真夏の種まきにチャレンジしているようです。
 発芽して本葉が出てくれば、後は日当たりの良い場所で肥培管理を行い、涼しくなるにつれ元気よく育ちます。
 カタログ等で珍しい品種などあれば、頑張って種から育てる価値はあるかもしれませんね。

 昨年末から植えたパンジー、ビオラ、本来なら今から最盛期を迎えますが、今年に入って、変化がありました。
特に、黄色、オレンジのパンジー、ビオラの花が殆どといっていいくらい、花が咲き始めると「何者か」に花をちぎられていました。(私の所だけかしら?)
 コンテナや花壇の周囲は花びらが細かく散乱していました。
「何者か」、拳くらいの鳥でした。(すぐ逃げてしまうので確認が出来ません・・・)
 寒さで餌が無かったのでしょうか。パンジーはエディブル・フラワーとしても食用にしたりします。鳥にとっては格好の餌だったのかも。
 もう一つは寒すぎたのでしょうか。
 乾燥も激しい時期ですが水やりもしなくてはなりません。低温が続き、かけた水が凍ってしまったり、根が腐ってしまったり、霜焼け状態になってしまいました。
 現在、その状況にも耐えた花苗は順調に育っています。

 3月にナーセリーへ行くと、もうパンジー、ビオラを見かける事が少なくなり、いち早く初春から初夏の花苗が一杯でした。
 もちろん、『早め』が流行の先端なのでしょうが、パンジー、ビオラの管理は花柄摘みを丁寧に行い、肥料切れを起こさせなければ5月のゴールデン・ウィーク頃までは綺麗に咲き続けます。
 植替えのタイミングは難しいですが、最盛期を見ずして植え替えるには淋しさを感じませんか・・・。
 今年は特に寒い時期を耐えて春を迎えました。
最後まで十分に咲かせてあげたいと思います。

御園 和穂  

(11/04/01掲載)  

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