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暦の上で、9月の始めを「二百十日(ニヒャクトオカ)」と呼びます。
この時期は、かつては日本人の主食である稲が開花する重要なとき。立春から数えて二百十日目にあたります。台風が多く発生する時期だった事から、折角開花した稲が大風で倒れてしまう事を懸念し、厄日として警戒していました。
現在は、温暖化による気候の変動のせいなのでしょうか? 7月、8月に台風が発生し、日本へ被害をもたらしています。
北九州は今年梅雨に雨が少なく、8月には台風や前線の影響で沢山雨が降りました。
このまま「秋」が来るのでしょうか? いつもは残暑の厳しい時期なのですが・・・。
今回は、少し季節外れですが・・・「夏の水辺を彩る水生植物」を紹介します。
スイレン 学名:Nymphaea スイレン科スイレン属の多年性水生植物。
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「スイレン」とは、一般にスイレン属の総称として呼ばれています。
世界各地の熱帯、亜熱帯および一部は温帯に約40〜50種類が分布しています。
日本には、ヒツジグサ(未草)と言われる一種類が古来から生育しており、比較的小さい(直径5〜10cm程度)白い花を咲かせます。大型の花を咲かせるスイレンは、明治時代に輸入された園芸種になります。
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水位が安定している池などに生育し、地下茎から茎を伸ばし水面に葉や花を浮かべています。
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葉は丸型から楕円形で中央部分から深い切れ込みがあります。
葉の表面には撥水性はなく、根から直接茎が伸び、その先に花を咲かせます。花は水面上に咲く種類と水面から茎を伸ばして咲く種類とあります。
名前の由来は、定かではありませんが、「睡蓮(スイレン)」は昼に花を咲かせ、夕方に閉じる事から「眠る」=「睡眠」と形が蓮(ハス)に似ている事から「睡蓮」という名になったとか。
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日本古来のヒツジグザ(未草)の方は、未の刻(現在の午後2時くらい)に開花する事からそう呼ばれてきたそうです。
実際は午前中から開花し、夕方閉じます。一つの花は3日間に3回花を咲かせ、その後水中に沈んで実をつけるそうです。実は水中で熟成し、海綿状の液果で種子を放出するそうですよ。一度見てみたいものですね〜!
水辺に浮かんでいる姿は、実に涼しげで可憐な姿です。画家のモネもこのスイレンに魅せられ、生涯描き続けたと言われています。フランス、ジヴェルニーにある自宅には「日本の庭園」を真似た池にスイレンを育てていた事は有名です。
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スイレンは、その姿・形から古来より神聖視されており、古代エジプト王朝では生命の河ナイルの水面に浮かぶスイレンの花を「ナイルの花嫁」と呼び、朝に開花し夕に閉じる花姿を「太陽神ホルス」に捧げ、植物を再生力や豊穣の象徴として崇拝しました。花が再度開花する姿を「復活」と称え、ミイラにはこの花を載せ、墓に花の模様を描き、神事にはパピルスと花を編んだ花輪を作り神に供えたそうです。
また、ギリシャ神話では、川や樹木の精霊が恋に破れたのちの化身とも言われています。学名のNymphaea(ニンファエア)=精霊(ニンフ)に由来しているそうです。
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ヨーロッパの伝説では、深い森の沼に住む妖精は、人が訪れるとスイレンに変身して相手を魅了し、人が花を取ろうとすると沼に引きずり込むという恐ろしい話が残っているそうです。
品種改良の起源は18世紀終わり頃のフランスに端を発します。その後19世紀末、フランスの園芸家マルリアクによって初めて多数の園芸品種が発表されました。「マルリアケア」と呼ばれる品種群がそうです。(現在でもあります)
アジアには、中国や日本において「ヒツジグサ」が鑑賞されてきたものの品種改良までは至ってなかったようです。明治末期から大正にかけて「マルリアケア系」が導入され栽培が盛んになったそうです。
栽培方法は、熱帯性のものと耐寒性のもので異なります。私たちが池などで見ているスイレンは「耐寒性スイレン」になります。
水深を30cm以上保つことの出来る池や泉水、水槽であれば畑土を敷き詰め直接植え付けるか、鉢に植付けものを水中に沈める事で育てられます。
鉢は小型のものを使い(小型で直径20cm前後の鉢、中・大型で直径30cmくらいが標準)、用土は荒木田土(市販されてます)を用意します。三分の一の用土に発酵済み油粕を2〜3個を包み底へ入れます。残りの用土にスイレンの株を植付けますが、水中に鉢ごと沈めるので株が浮いてこないようにしましょう!
肥料は、化成肥料でも構いませんが表面に置くのではなく、用土の中に埋め込んで使いましょう。(表面に置くと、溶けて水が濁ります)
鉢の場合は根の張りが早いので、毎年もしくは2年に一度は植替えをしましょう。
直接植付ける場合、良質の畑土であれば特別肥料は必要ありません。5〜6年に1回、株分けを行い、冬場に油粕と骨粉を少量、株の間に施す程度で十分です。
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株分けは3〜5月が適期。混み合った根茎を掘り出して、芽を付けて切り取ります。
(写真:「スイレンの株分けより」参照)
その後、鉢(黒のビニールポットでもOK)などに植替えて水の中へ沈めます。葉が水の中に沈み込んでしまうと腐ってしまうので、水の量は少なめにし、葉が水面に出るくらいに高さを調節します。伸びてきたら水を加えていきましょう。
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スイレンは葉と花が別々に出てきます。
水の中であっても、株元に十分日が当たらないと花茎を伸ばしません。また、日照不足になると、葉が黄色くなったりします。株が茂って、水中が混み合ってきたら、葉を間引いて株元へ日が当たるようにしましょう。
花が終わったら花柄摘みもしてくださいね。花茎を残しておくと、水中で腐ってしまうので、花茎の株元から取り除いてください。
観賞期間は長く10月一杯まで楽しめますよ。
次は、花は観賞用、装飾用。根は食用になる「ハス」です。
ハス 学名:Nelumbo nucifera ハス科ハス属の多年生水生植物。
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熱帯及び温帯アジア、南・北アメリカ及びオーストラリアに2種が分布しています。
ハスの名前は、花後に出来る果実が蜂の巣に似ている事から「ハチス」と呼ばれたものが変化して「ハス」になったそうです。
また、仏教との関わりも深く、仏様がハスの花(蓮華)の上に座られている姿を見たことがあると思います。また、お盆にお供えする砂糖菓子にハスの形をしたものを見かけます。
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仏教とともに伝来し、また、地下茎は「レンコン」という名前も知られています。
地中の地下茎から茎を伸ばし、水面に葉や花を浮かべます。大型種では草丈が1mを超える種類もあり、水面から突き出した葉も見ることもあります。葉は円形で切れ込みがなく、葉柄が中央についています。表面にはロウ物質があり水を弾きます。姿・形は似ていますが、ここがスイレンとハスの違いです。
花の時期は7月〜8月で白やピンクの花を咲かせます。開花するときに「ポン」と、音がするとか・・・。この音が聞けるまで精進すると悟りが開け、地獄に落ちることはなく成仏できるという話もあるそうです。
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花は3日の間に3回花を咲かせて4日目に終わります。
1日目、ほんの少し(3cmくらい)徳利のように開き、9時ごろには閉じます。2日目、明け方から花びらを大きくお椀型のように広げ、昼頃まで咲いています。白色の花は汚れのない無垢な姿、ピンク色の花は気品のある色艶やかな姿、エキゾチックです。
3日目は昼前までに完全に開ききり、花色も褪せてきます。午後に入ると半開きの状態に。4日目、朝方から再度開いて、その後花びらが落ちてしまい花托のみになります。花を見たい場合は、午前中に観賞してくださいね。
花後の花托は「蜂の巣」と言うより「ジョロの先」見たいですね。ここに種が出来てきます。
種が熟れた後は、そのまま池の中に種が落ちます。
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花托部分 |
種の様子(季節の花より参照) |
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収穫して「ハスの実」として、また若い花托は生で食べられます。硬そうに見えますが手で裂くことが出来ます。
種の形はドングリに似ています。そのままだとトウモロコシを生で食べたような感じです。中国や台湾、香港では甘納豆や汁粉、餡にして月餅、最中などに加工されることも多いそうです。
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種の芯の部分は苦味があるので、加工の際に取り除き「蓮芯茶」として飲まれ、他では蓮肉(ハスニク)という生薬として鎮静や滋養強壮に効果があるそうです。
茎の中は空洞になっているので、撥水性の葉の部分にお酒を溜めて、茎から飲む象鼻杯(ゾウビハイ)という習慣のある地域もあるそうです。
日本でも茎を煮物にしたり、秋田県では茎の砂糖漬けが食されています。
また、茎の表皮は細かく裂いて糸を作り(茄絲:カシ)、内部の繊維で作る糸(藕絲:グウシ)で布を織るそうです。
ハスの果実(種)の皮はとても厚く、土の中でも長く発芽能力を保持することが出来ます。
1951年に東京大学検見川厚生農場の落合遺跡で発掘されたハスの実は、放射性炭素年代測定で約2000年前の弥生時代後期のもので、理学博士の大賀一郎氏によって発芽させる事に成功しました。また中尊寺の金色堂須弥壇から発見され800年ぶりに発芽(中尊寺ハス)した例や、その他、生田蓮(1400〜3000年前)などが有名です。
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