洋ラン-1 〜コチョウラン、カトレア〜
 今年の夏は天候の悪い日が多く、逆に灌水は困りませんでしたが、日照不足で草花の開花に影響があったものもありました。
 残暑もさほど厳しくなく「早めの秋」を感じましたが、「早めの冬」も来そうです。
 これから来春へ向けての植替え時期です。寒くなる前に終わらせてしまいましょう。

 今回から、洋ランを紹介します。
 まずは、少し歴史を知っておきましょう。
 ラン科の植物は世界中で700〜750属、2万5千種を数え、30万種とも言われる全ての植物の約1割を占める最大のファミリーです。
 紀元前6世紀頃、中国の孔子は「蘭(ラン)は香りある植物の王」と評したとされ、森の精霊としてランは人々の生活に深く関わってきました。
 現在、私たちが親しんでいる洋ランの原種が西インド諸島からヨーロッパに持ち込まれたのは18世紀半ばと言われ、その花の美しさ、艶やかさに貴族や富豪の間でもてはやされ、19世紀ヨーロッパではかつてない「ラン狂時代」を迎えたそうです。
 日本には明治20年頃、子爵福羽逸人(フクバ ハヤト)がフランス留学から帰国時にシンピジュウム、オンシジュウムを持ち帰り、明治27年新宿御苑に温室が建設され本格的な洋ラン栽培が始まったそうです。
 当時の華族や皇族の間で広がり、当初は株分け程度の増殖しか出来ず、栽培上も高価な温室が必要なため、上流階級の趣味もしくは専門の高級切花としての販売に留まりました。
 産業として、ラン栽培はカリフォルニアからハワイに始まり、シンガポールやタイへ広がり、日本へは1960年代以降導入されました。沖縄ではデンファレ系の切花栽培が1975年から急増し、産業として定着しました。
 洋ランの栽培は極めて高級な趣味で、特殊な技術や設備が必要であることから大量増殖が困難(種子からの繁殖の困難さと株を増やす困難さ)とされてきました。
 このような理由で、洋ランは長い間、極端に高価な花でした。大卒給料が一万円台の当時にシンピジュウムのバルブ(株元にある球状の茎のこと)が4〜5万円程、カトレアの上級品は10万円もしたそうです。
 その後、技術革新が行われ、無菌播種法(※)とメリクロン技術開発(※)により、増殖法が実用化されました。
  ※無菌播種法:種子を次亜塩素酸ナトリウムなどで殺菌し、微生物・菌類等を排除してから寒天培地の
    無菌状態に種子を蒔く事。

  ※メリクロン:メリステム(主として茎頂)とクローンをつなぎ合せた言葉。植物体の頂端分裂細胞周辺
    にある細胞は一般的にウィルスフリーのため、この細胞を培養することでウィルスフリーの植物体
    が作れる事。


 今でも高価な花に違いはありませんが、一昔前に比べれば身近な植物になりました。
 洋ランの本質は観賞用ですが、趣味としての栽培と、切花や贈答用の鉢物として販売する事が殆どです。
 現在日本で販売される洋ランはコチョウランがもっとも多く、周年に渡り花や開花株が出回っています。

 よく見かける洋ランと言えば。
 コチョウラン 学名:Phalaenopsis Aphrodite Rchb.f.
ラン科 ファレノプシス属
和名:コチョウラン(胡蝶蘭)
英名:Orchid
 コチョウランは東南アジアに分布する大きい平たい葉を持つ単軸性の着生ラン(※)です。
    ※着生ランとは 木などに根を広げて着生する植物の事。  台湾の南部からフィリピン、インドネシア、タイ、ビルマ、インドに広がり、一部オーストラリアにも自生しているそうです。
 花は優美で、和名の胡蝶蘭(漢字で書くと)の通り、蝶が舞うように開花します。
 わが国では洋ランの中でもコチョウランが一番親しまれているようです。
 本来は5〜10m程の高木の幹や枝に着生し、20〜30cmの弓状に伸びた花茎に、数十個の花を付けます。
 花色は清楚な白色、エキゾチックなピンク系、華やかなイエロー系など花色は様々です。
  花の大きさも大輪のものから小輪咲きのミニコチョウランなどもあり、とても人気があります。花は時期にもよりますが、1ヶ月から長くて3ヶ月近く持つものもあります。
 贈答用、切花やウェディングブーケ、慶弔用としても重宝されています。
 コチョウランの鉢物は「自分で購入」、というより「頂き物」。「何を差上げようか?」の時のお助けアイテムの一つです。
 本来は花を楽しんだ後は、「育てる」行為が付いてきますが、「その方面の趣味がない」、「手がかかるのでは」、「面倒では」、と考えている間に枯れてしまい、軒下の隅っこに、花茎を固定していた支柱が突き刺さった姿の鉢をよく見かけます。正直に言えば、「本来の姿」かも知れませんね。
 先に述べたように「簡単な植物」ではありません。それなりに知識があり、設備などがあれば、「栽培にチャレンジしてみても良いのでは!」と思います。
 では、少しだけアドバイスを!
 コチョウランは熱帯の植物なので寒さが苦手です。真冬に購入したり頂いたりした鉢物(開花株の場合)は、温室で育った物です。
 室内の最低温度を15℃くらいに保つ事が必要です。置き場所はレース越しの日当たりの良い場所、真夏は直射日光を嫌います。50%から70%の遮光が必要になります。(熱帯の樹木に引っ付いている植物なので直接日は当たりません)
 水遣りは植込み材料(水苔です)が乾き始めたら、室温と同じ位の水を与えます。水の与え過ぎは根腐れの原因になりますが、湿度は必要なので、暖房が効いた暖かい部屋の場合は霧吹きをして加湿にしてください。
 空中湿度が不足すると花の寿命が短くなります。開花中、肥料は必要ありません。開花は花茎の下から先端に向かって咲き続けます。終盤になって、最後の花が終わったら、花茎の途中で切ると再度花を咲かせる事があります。(住友化学園芸より参照)
 コチョウランは1年を通して販売されていますが、温室等を使い強制的に開花できるように調整されています。
 自然状態では11月から12月に花茎が伸び、冬の加温した温室で2月から3月に開花、暖房の効いた部屋で簡易ビニール温室の場合3月から4月に開花します。普通のお部屋ではそれ以降の開花になります。
 植替えは屋外の気温が15℃以上になった5月から6月頃。鉢の中にコチョウランが3株くらい入っていると思います。その株をビニールポットから取り出し、5号鉢程度の素焼き鉢に一株ずつ植替えます。用土は水苔です。
 根を傷めないよう古い水苔を取り除き、新しい水苔を巻いてください。
 肥料は、生育温度の15℃以上あり開花していない時期であれば、定期的に洋ラン用の緩効性の化成肥料を置き肥します。また、併用して洋ラン用の液体肥料を適宜与えます。一般の液体肥料なら通常の希釈より3倍から5倍くらい薄くして与えます。(開花中及び冬の生育温度のない時は与えません)  出来そうなら、是非挑戦してみて下さい。

 次は誰でも知っている洋ランと言えば。
 カトレア  Cattleya  ラン科 カトレア属
 カトレアは中南米原産、大輪の美しい花を咲かせる事から栽培愛好家が多く、洋ランの代名詞のように言われています。
 鉢物は勿論の事、切花としても華やかな姿と高級感は群を抜いています。
 艶やかさゆえでしょうか。「洋ランの女王」とも言われています。
 コチョウラン同様着生ランで、肥大した茎と厚みのある葉、太い根が特徴です。
 着生ランの特徴ですが、カトレアの根は太い「うどん」のようで、木の幹や枝に張り付くように生活をしています。着生根は枝、幹に伝ってくる雨水を素早く吸収し(根に溜めて)、その後ゆっくり体内へ吸収します。
 根の組織は葉緑体を持ち、光合成の能力も持っているそうです。鉢植えで外に伸びている根が緑色に見えるのはこのためです。
(写真:シンガポール植物園内のカトレア、観賞できるよう太い木に着生させている)
 カトレアは最初に栽培で花を咲かせたWilliam Cattleyにちなんで、属に彼の名前が付けられました。
 彼は南米から送ってもらった荷物の梱包材として使われていたこの不思議な形の着生植物に興味をもち、栽培してみたところ見事な花を付けた、というお話がイギリスの本に掲載され、イギリスの植物学者ジョン・リドリーが献名したという逸話が残っています。(ウソかホントかはわかりません・・・)
 和名としては「ヒノデラン」という名があり、牧野富太郎先生によって命名されたそうです。
 カトレアは洋ランの代表としても注目されており、「四大洋ラン(※)」のトップを守っています。
   ※四大洋ランとは:カトレア、パフィオペラディルム、デンドロビウム、シンビジュウムの特に有名な
     4つの属の事を言う。

 カトレアも他の洋ラン同様、人工交配により無数の種ができました。その為なのか開花する時期が、春・初夏・夏・秋・冬・不定期咲き種と様々のようです。  もちろん温室設備が必要な鉢物ですが、今の住宅は気密性が高いので、冬場を越せれば問題ありません。
 もしも購入されるのであれば、秋咲きカトレアをお勧めします。
 知り合いがカトレアを育てています。どんな風に管理しているのかな?見せて頂きました。
 置き場所は5月頃(15℃以上になったら)から、吊鉢状態で戸外へ出していました。元々が着生タイプなので、同じような環境にしているのでしょう。
 水はよほど乾かないと与えていませんでした。(用土は水苔です)
 「光と風と湿度を必要とするんだよ」と言われていました。そうです!水を与える事と湿度を上げる事とは別ものです。水の与えすぎは根腐れするので要注意です! 真夏は日差しが強いので遮光(50%程度)します。
 肥料は生育期間中(4月から9月くらいまで)に洋ラン用の液体肥料、もしくは緩効性の化成肥料を置き肥します。病害虫はその場に応じてとの事だそうです。夜間温度が18℃を下回る頃を目安に温室へ移動させます。
 1000鉢はあるかな?温室内はギュウギュウ詰めになりそうです。
 夜の温度が15℃を下回るとボイラーが稼動し、温度調整を行っているそうです。日中と夜間の温度差も必要なのだそうです。秋口から冬場のお天気の良い日は温室内でも扇風機を回す事もあるそうです。
 ちなみに真冬の灯油代は一ヶ月に5万円を下らないとか・・・
 趣味で始めたカトレア栽培も「趣味の域を超えて」いるような〜
 11月からあちらこちらで展覧会があるので、出展されるそうです。
 少ない鉢の数であれば、室内でも十分に育てられそうです。
 真夏はレースのカーテン越しの日の当たる場所、真冬はガラス越しの日の当たる場所で、風通しを良くし、温度だけ気をつけておけばよさそうです。
 冬場の温度管理が大切なので、気温が下がる夜はダンボール箱などで覆い、タオルで包んだ湯たんぽなどを利用すると保温できます。
 蕾が付きだしたら、むやみに場所を移動させないで下さい。温度差が大きくなると蕾が落ちてしまう事があるので要注意です。
 
 今回はコチョウラン、カトレアを紹介しました。次回も他の洋ランを紹介します。 (洋ランは日本のみでの使用用語。通常は東洋ランです)

 鉢物は、花壇やコンテナの草花とは管理方法が大きく異なります。美しい花を見るためには・・・多少の苦労は必要のようですね!
 家廻りに置いてある鉢物、どこで冬を越しますか?

御園 和穂  
(14/11/01掲載)  

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