「春」ってどんな意味を持っているのでしょうね? 広辞苑で引いてみました。
《草木の芽が「張る」意、また田畑を「墾(ハ)る」意、気候の「晴る」意からとも。 四季の最初の季節。云々。》
寒い季節から少しずつ暖かくなり、桜が咲き、その後木々が芽吹き、日も長くなり次第に暑くなる頃までをさすのでしょう。
暗い季節から明るい季節へ移り変わりです。
花粉症の方には辛い季節なのかもしれませんが・・・心弾む「春」がやってきました。
今回は、この時期どこでも目にする「サクラソウ」をご紹介しましょう。
まずは古典園芸植物でもあるニホンサクラソウ。
サクラソウ 学名:Primula sieboldii(シーボルト氏がつけた学名です)
和名:サクラソウ 英名:Primrose、サクラソウ科サクラソウ属の多年草です。
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自生のさくらそう |
日本では北海道南部から本州、九州の高原に分布していますが、野生のサクラソウは見る事が殆ど出来なくなってしまったようです。
サクラソウは林間の湿地や原野の草の間に生息し、春に発芽、高さ15〜30cm程度の花茎を伸ばし10個程度の花を付けます。葉は長く楕円形で縁に切れ込みが入ります。淡いピンク色、たまに白花も見る事があるようです。
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6月下旬から7月ごろ葉が枯れ休眠状態に入ります。夏の暑さと乾燥には弱いのですが日本の風土には合っているようです。(北九州市では少し難しいかも)
古典園芸植物に上がっているように栽培の歴史は江戸時代に遡ります。
江戸時代中ごろから、荒川の原野に生息していたサクラソウから種を採り栽培が始まった記述が残っています。
種を蒔き、それを繰り返している内に様々な色合いや大きさの異なる物が生まれ名前が付けられたそうです。
江戸時代の後半になると品種などが沢山増え、それらを持ち寄り品評会も多く行われていたようです。
栽培者は旗本や御家人など武士階級が主で、新しい品種を作る事を競いあっていたそうです。 ある書物には女性の育苗家が寒天を重箱に流し、その中へサクラソウの花を入れ固め楽しんでいたとか。なんか「粋」ですね。
幕末には各地へ広がったようです。現在栽培される300品種のうち、その半分くらいは江戸時代から株分けで伝えられた物だそうです。
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「加茂花菖蒲園のサクラソウ」の写真を拝借いたしました。1980年から、わずかの苗を育て始め、庭園で観賞に耐える丈夫な上向きの品種改良に取り組まれ、その中から八重咲きの性質を発見。これを元に写真のサクラソウを育てたそうです。大変貴重な系統として話題になっています。
長い歴史の中で、大胆であでやか、そして清楚な花として愛されている理由が分かるような気がします。
現在、自生地として残っているのは、埼玉県さいたま市の「田島ケ原サクラソウ自生地」ここだけのようです。
国の天然記念物に指定されている貴重な群落で、かつては荒川流域の一帯においては下流まで自生していたそうですが、治水工事や工場の開発等で原野の植生が変わってしまい今の現状まで狭められたそうです。(さいたま市のHPより)
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田島ケ原自生地の碑 |
サクラソウの群落 |
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群落衰退の危機に対して、さいたま市を中心とし研究者や愛好者が人為的な灌水管理等を行い、生き残った自生地の保護にも努めているそうです。
2007年以前、環境省のレッドデータリストの中では絶滅危惧U類だったそうですが、保全の努力の結果ランクが下がったそうです。
ニホンサクラソウは園芸店などでは見かける事はありませんが、栽培をしている場所はあります。機会があれば是非みたいものですね。
園芸店で見ているサクラソウは? こちらはヨーロッパやアジアに自生するサクラソウ属の原種や変種、品種、または交配して作られ品種です。
代表選手はプリムラ・マラコイデス(Primula Malacoides)、プリムラ・ポリアンサ(Primula polyantha)、プリムラ・ジュリアン(Primula ×juliana)、
プリムラ・オブコニカ(Primula obconica)です。(写真は植物図鑑より)
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プリムラ・マラコイデス |
プリムラ・ポリアンサ |
プリムラ・ジュリアン |
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プリムラ・オブコニカ |
プリムラ(西洋サクラソウ)も歴史は古く、18世紀に作出されたものが今でも受け継がれて育てられているそうです。
冬から春の花壇やコンテナには欠かせない植物になっているようです。
マラコイデスはニホンサクラソウに一番似ていて、日本人には一番の人気植物かもしれません。
代表選手に挙げた中で一番夏越しがしにくい品種かもしれませんが、上手に種を採ったり株分けをしたり楽しんでいる方を多く見かけます。
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ポリアンサ、ジュリアンは花壇の縁取りやコンテナなどに幅広く使われている種類です。以前はポリアンサより小ぶりの花が付くのがジュリアンなどと見分けていましたが、現在では品種改良が進み、正直な所どちらが?見分けが付かなくなってしまいました。
ポリアンサも改良品ですが、ポリアンサとコーカサス原産のジュリエという品種の掛け合わせによってジュリアンは誕生しました。
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この写真はジュリアンのバラ咲きです。
今までのものに比べると、ペタンとした花の印象はなく、立体的でふんわりした感じです。
花壇では持ったいない気もしますが、コンテナなら主役にもなれそうな華やかさがありますね。
オブコニカは屋外よりか、室内で楽しめるタイプです。
一般にプリムラ類は日当たりを好みますが、オブコニカは明るい日陰を好みます。また、他のプリムラ類に比べると耐寒性が弱く、耐暑性が強いので夏越しも容易かもしれません。
プリムラ類は葉や茎に細かい産毛のようなものが生えています。オブコニカからは「プミリン」という毒素が分泌されるため、触れるとかぶれる恐れがありますので敏感な方は手袋をはめて触れるようにしましょう。 また、プリムラ類は割りと水を好みます。(特にオブコニカは好きです)開花期間は長いので、小まめに花柄を摘み、適宜肥料を与えてあげると良いですよ。
最近園芸店でその他のプリムラ類も多くなってきました。 プリムラ類は生育状況が個々によって異なりますので、全てがこの地に適してるとは言えません。 ただし、条件が合えば毎年花を咲かせ、株を太らせて渡し立ちを楽しめる植物の一つですね。
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プリムラ・デンティキュラータ |
プリムラ・ビアリー |
P・ポリアンサ ゴールドレース |
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ちょっと変わったプリムラも紹介しましょう。
・デンティキュラータは「玉咲きサクラソウ」の名でたまに見かけるようになりました。 色は薄い紫のような色もあります。
ネパールの標高4000mの山地が原産地。 冬にはとても強いのですが、夏は暑さに弱いので涼しい所で管理をしないと いけません。一度挑戦しましたが消えてしまいました・・・。
湿気の多い場所を好みますので、水辺などにも適しています。
・ビアリーは花先が穂状花序でプリムラ類としては珍しいタイプです。
中国原産の宿根草で、こちらも寒さには強いのですが暑さには弱いので要注意です。
・最後にポリアンサ ゴールドレース。
18世紀に作出されたと言われている古典園芸種のポリアンサです。 高さは15cm程度の茎を伸ばし、その先端にこげ茶のようなエンジのような色合いの 花を付けます。
中心の黄色がゴールド、花びらの周囲の縁取りがレースなんだそうですよ。
やはり冬に強くて、夏の暑さは苦手のようです。
でもクラシカルな感じが魅力的ですよね。
これから華やかな時期がやってきます。
「春は三日と天候が続かない」というくらい変化をする時期ではありますが、植物園や公園には様々な花達が咲き乱れます。
陽気に誘われて楽しんでみてはいかがでしょう。 春爛漫!
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御園 和穂
(10/04/01掲載)
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