クチナシ
 6月、雨の多い季節です。
 気象学的には「梅雨入り」「入梅(ニュウバイ)」と言い、春の終わりで、夏の始まりとされる時期、なのだそうです。
 最近の梅雨は、以前のように雨足の強くないシトシト雨で・・・・ではなく、激しい雨が長時間降り続く豪雨で被害が出てしまいます。
 今年の梅雨はどんな感じの雨が降るのでしょうか。
 
 今回は初夏に香る「クチナシ」の花を紹介します。
 クチナシ 学名:Gardenia jasminoide(Gardenia augustas)

クチナシ(一重咲き)

クチナシ(八重咲き)
アカネ科クチナシ属、常緑低木
別名:ガーデニア 漢字表記:梔子 
原産地:日本、中国、台湾、インドシナ
花の特徴は樹高1.5m〜数mの大きさになり、葉は楕円で光沢があり、花は5cm〜10cm程。
開花時は真白で大きく開いてくると黄色がかります。強い香りが特徴の一つです。開花時期は6月〜7月。園芸品種も多く出回っており、葉が斑入りのものや花が八重咲きのものもあります。
(写真:植物図鑑参照) この時期、雨がやんだ時の蒸し暑さの中、どこからか、ほんのりと香ってくるのが「クチナシ」の香りです。
 どんな匂い? 甘くて濃厚でクリーミーな、ココナツのもっと濃いような香り、ジャスミンにも似ています。(表現が下手で・・・香ると分かるのですが)
 暖かい気候を好み、日本では海岸近くの山野に自生することが多く、低木樹木として庭木や街路樹に使われ、小型のタイプは鉢物でも親しまれています。
 また、水上げが良いので切花でも楽しめます。
 クチナシには、『四徳あり』と言われ、「純白の花色、清潤なる香り、冬でも青々と茂る葉、オレンジ色に熟す果実」をさすそうです。
 ※四徳とは:儒教の経典の一つで易経の中の言葉。
  天地自然が万物を育てる四つの道の事。元(春:仁にあたる)、亨(夏:礼にあたる)、利(秋:義にあたる)、
  貞(冬:知にあたる)
 その香りは古くから人々を魅了し、今でも夏の代表です。
 海外には、1750年代に中国からイギリスに渡ったという記述が残っています。当時、ケープ・ジャスミン(ケープタウンのジャスミン)と呼ばれ、19世紀の半ばにヤエクチナシが紹介されました。
 学名のガーデニアは、医師で植物学者のガーデンにちなんで命名されたとされています。
 クチナシはその香りと清楚な花姿から、若者が愛する女性に贈る花束として使う習慣が生まれ、夫婦の寝室の飾り花として「愛を育む力のある花」と信じられていたようです。
 その香りはとても強く、切花の場合は1輪で充分に楽しめます。

 花は一重咲きと八重咲きがあります。
 一重咲きは香りも強く果実もできますが、八重咲きは香りが弱く、雄しべがないので果実が出来ません。
←クチナシの果実(写真:植物図鑑より参照)
 クチナシの花(上記の写真参照)をよく見ると中央部分からヒゲのような萼片が出ていて、果実の先端はその萼片のなごりの6本がついているのが特徴です。
 果実の収穫は11〜12月です。
 クチナシの名前の由来は・・・
 秋に実る果実は上を向き、先端が尖った姿を鳥の口ばしに見立てて「口をもつナシ」=「口梨」とした説(これは理解しにくいですね)やこの果実は他の植物のように裂開(裂けて開く事)しません。それで開く口を持っていない事から「口無し」、からきたとも言われています。
 もしも、果実が欲しい場合は一重咲きを選んで植えてください。
 花は沢山咲きますが、全てが果実になるわけではありません。ただし、この果実一つで充分に染料としての効果が得られると思います。
 クチナシの果実は昔から漢方薬や染料として親しまれてきました。
 漢方薬としても、中国、明時代の薬物事典『本草綱目』に幅広く薬効が記されていたそうです。果実は山梔子(サンシシ)と呼ばれ、煎じて黄疸などに服用され、他では消炎や鎮痛の薬としても用いられています。
 染色としては、皆さんも食べる、たくあんやお節にはいっている栗きんとん、
 大分県の名産の黄飯もクチナシの果実で色をつけました。

栗きんとん

たくあん

おうはん(黄飯)
 ※黄飯(おうはん):NHKの「風のハルカ」で紹介され、大分県の郷土料理。
  江戸時代、臼杵藩の財政が困窮した時代に質素倹約の中から生まれた赤飯の代用品だとか。
  一説には南蛮貿易が盛んで、スペイン、ポルトガルとの貿易の中でスペインのパエリアを真似たとの事。
  (写真:NHK「風のハルカ」より クックパッドより)
 現在ではどうなんでしょうね?
 栗きんとんを作る際には、栗やサツマイモをアク抜きをし(明礬を加えた水なら30分程度でアクが抜けます)、乾燥したクチナシを包丁の柄で砕き(1〜2個)、中の実をガーゼやダシ袋に入れ鍋でサツマイモなどと一緒に煮ます。(500gくらいのサツマイモに対して1〜2個で十分です。果実は長く保存も可能です。)煮ている間に黄色くなります。
 作るより、買うほうが主流でしょうか。
 老舗の和菓子などは今でもクチナシの果実を使用していると思います。食紅でも良いですが、やはり天然の色は綺麗ですよね。

 クチナシは花の咲く時期に伸びてくる新しい枝に翌年の花が咲きます。秋以降に枝を切ってしまうと花芽ごと切ってしまうことになるので翌年花つきが悪くなることもあります。
 花が終わった直後に、出きるだけ早く剪定を行いましょう。
 植え付けは大きい株ではなく、若い苗の方が根の付きがよい性質があります。
 土壌は水はけの良い、弱酸性の土壌を好みます。あまり深く掘らず、多少山だかに土を盛って植えつけると良いでしょう。
 植え付け直後は、乾燥させないようタップリ灌水をしてください。
 適期は、春なら4〜5月、秋なら9月です。増やし方は挿し木が簡単です。
 6〜8月に、その年に伸びた枝を先端から15cm程度切り、コップなどに1時間程度挿して十分に水を吸水させます。
 湿らせた赤玉土や川砂を入れた容器に挿します。半日陰の場所で乾かさないよう管理すると1ヶ月程で発根してきます。(この間は挿し木には触らないでください。)
 その後秋に植えつけるか、冬越しをさせ(寒さの当らない場所で管理。)翌春に植えつけます。
 害虫はオオスカシバが付きます。

写真左 オオスカシバ 
写真右 オオスカシバの幼虫

 幼虫がクチナシの葉を食べてしまいます。緑色の、大きさが3〜5cmくらいのアオムシです。お尻にツノのようなものが生えてます。
 もしも幼虫の確認ができたら捕殺してもよいですが、殺虫剤を散布して駆除してください。(薬はMEP剤を使用します)
 育てやすい樹木で、鉢植えでも良く育ちます。
 メインの樹木ではありませんが名脇役です。お庭のちょっと控えめな半日陰の良い場所を選んで、植え付けしてみませんか。

 クチナシをはじめ、春のジンチョウゲや秋のキンモクセイのように季節を象徴する香りの花木もあります。
 最近は品種改良がすすみ、花を多く咲かせたり、実をたくさん採ったり、病害虫がつきにくかったり、と高品種のものが一般的になってきました。
 その中で「花の香りの無いもの」も多くなってきていると何かの本で読みました。香りには人それぞれ好みがあり、あまり強すぎるとむせてしまったり、不快になったりすることもあります。
 『目の不自由な方』のために花壇を作る時、「香りのある花木や草花」は必需品になります。音と香りで楽しめるように作庭します。
 近年私達の周りには、便利な物がたくさんあって当たり前であり、季節感も希薄になってきてしまっているような気がします。
 もう少し五感を大切にしないといけないのかもしれませんね。
 鬱陶しい梅雨ですが、ちょっとだけ「香り」を探してみませんか。

御園 和穂  
(13/06/01掲載)  

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