シャクヤクとボタン
 爽やかな日が続くようになりました。
 これからの時期は暑くなる一方ですが、一年の中で一番安定している気候です。
 暦の上では「夏」の始まりです。
 
 今回は「立てば芍薬、座れば牡丹・・・」、女性の美しさを形容した言葉です。まさに今が盛りの花、シャクヤク、ボタンを紹介します。

立てば芍薬・・・
 シャクヤク 学名:Paeonia lactiflora ボタン科の多年草。
シャクヤク(植物図鑑参照)
 原産地:アジア大陸北東部。 別名:カオヨグサ、エビスグスリ。 和名:シャクヤク(芍薬)。
 高さ60cm〜80cm程度に成長し、5月〜6月に開花。
 日本には奈良時代に薬用として渡来。室町時代には「花の美しさ」から観賞を目的として栽培が始まったとされています。
 1680年代には栽培品種が100を超えたと伝えられています。
 19世紀にはヨーロッパでも、多くの品種改良がおこなわれ、西洋シャクヤクと呼ばれています。
 日本での改良種は花が大きく艶やかな雰囲気なのに対して、ヨーロッパの花は小ぶりで花色が豊富でモダンな感じの種類に改良されています。
 一重咲き、八重咲き、バラ咲きなど、多種多様です。

 シャクヤクは、一般的には鉢物で親しまれていますが、切り花でも。
 写真はオランダの花市場の様子です。
 シャクヤクが、所狭しと並んでいました。 5月から7月いっぱいは人気の切り花だそうです。 切り花の場合、蕾で販売されている物がほとんどですが、意外に蕾が開かない・・・なんて事を耳にすることもあります。
 そんな時は、葉や花の部分は新聞紙に包んで保護し、茎先だけを熱湯に約15秒つけます。その後水の入ったバケツにつけておくと花が咲きやすくなります。
湯あげという方法です。ストックやマーガレットにも効果的です。
 シャクヤクとボタンはよく似ています。親類関係にある植物ですが、見分け方はボタンは木、シャクヤクは草です。
 シャクヤクは前述のように5月頃から花が咲き、夏場は葉を茂らせ、冬期には上部を枯らして休眠します。
 花は一重咲き、八重咲き、翁咲き等ボリュームのある豪華な花を付けます。
 翁咲きとは、雄蕊(オシベ)が発達して盛り上がり、花の中央部分を飾る咲き方をするものをそう呼びます。(写真:植物図鑑参照)
芽出しからの様子(植物図鑑参照)
 年明け3月に入ると、赤い新芽が地上部に顔をだします。
 その後茎を伸ばしながら葉を展開していきます。
 4月以降は赤い葉も緑になりその後蕾を付け、5月に入ると開花します。
←4月の蕾の様子
 開花後、そのままにしておくと種をつけます。種を付けさせると株が弱るので、花が終わりかけになったら摘みます。
注意としては、ウイルスに感染しやすいので、花茎を切るハサミは消毒をして使うと良いでしょう。
 夏季の暑さが苦手。鉢植えの場合は風通しの良い半日陰に移動させましょう。地植えの場合は藁や腐葉土などを敷き、極端に気温が上がらないよう工夫してください。
 水やりは、乾燥を嫌うので土の表面が乾いてきたらタップリ与えましょう。
 冬の寒さには強いから特別心配はいりません。
 植替えは春より秋(9月下旬から10月)の方が適期です。
 根は、漢方薬として(芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ))の効果が知られています。単独で使われる事はありませんが、他の薬草と合わせて使用すると効果が高まるそうです。
 くれぐれも使用する際は、医師、薬剤師さんに相談して漢方製剤を使ってくださいね。
 シャクヤクは、株が茂ってくると沢山の蕾をつけます。全部の蕾を咲かせても構いませんが、蕾を間引いて数を少なくすると(蕾の付いた茎の一番下から切る)、残った花が大きく咲きますよ。
 
座れば牡丹・・・
 ボタン 学名:Paeonia fuffruticasa ボタン科ボタン属の落葉小低木。
 和名:ボタン(牡丹)、英名:Peony、
 別名:富貴草、百花王、深見花等。
 高さは80cm〜150cm程度に成長し、よく枝分かれをします。
 開花:4月〜5月の一季咲きと、さらに12月〜1月頃にも咲く二季咲きがあります。二季咲きは「寒牡丹」と呼ばれ、冬にも開花するため珍重されています。
 ちなみに「冬ボタン」は春咲き品種を温室等で促成栽培して冬に花を咲かせていますので、「寒牡丹」とは異なります。
 原産地:中国。日本へは平安時代に空海が中国から持ち帰ったと記されています。当時は、「薬用」として寺院などで育てられていましたが、「花の美しさ」に魅了され、僧侶や貴族の間で愛でられるようになったようです。
 一般に民衆へ浸透したのは江戸時代に入ってからとの事です。「ボタン熱」と言われる程白熱し、当時30〜40種程の品種が1680年代後半に入って300種を超える品種が生まれています。
尾形光琳 牡丹図(図録より参照)
 当時、画家は様々なボタンを描き、歌舞伎の世界でも紋付きや蛇の目にボタンを描かせた程、皆がボタンに魅了されたようです。
 ボタンがヨーロッパへ渡ったのは、オランダの東インド会社が17世紀に中国から持ち帰ったのが最初とされています。
 その後、日本の幕末、開港から多くの品種が海を渡りました。
 世界に広められたボタンは、20世紀初頭のフランスでは、明朝時代末期(1640年代)に途絶えたと言われている「黄花」種を復活させるまでに至りました。
 ボタンの花が咲き終わり、その後放置すると種が出来ます。もちろん、その種を蒔いても花は咲きます。しかし、発芽し開花するまでにかなりの時間を要さなければなりません。
 種から育てた事はないのですが、花が咲くまで5〜6年は掛かるようです。 美しい花を観賞するまでには時間を要する・・・「高嶺の花」とは、まさしくボタンを指すのかもしれませんね。
 戦後、さらに品種改良が進んだのは、接ぎ木をするようになった事からのようです。接ぎ木台はシャクヤク。
 時々、ボタンの脇からシャクヤクが顔を出している姿を見る事があります。明らかに違いはわかりますので、台木のシャクヤクは株元で切ってください。放置すると、ボタンの生育の妨げとなり、ボタンは枯れてしまいシャクヤクになってしまう事もあります。
 ボタンも漢方薬として根の皮の部分を使います。(大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ))シャクヤクと同様婦人科疾患に用いられるようです。
 ボタンの最盛期はそろそろ終わりですね。
 豪華な花は庭だけで楽しむのでなく、思い切って茎を切って切花でも楽しんでみてはいかがでしょう?
 
 「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」
 シャクヤクはスラリとした茎の先に華麗な花を咲かせ、ボタンは枝分かれした横向きの枝に豪華な花を付けます。そして百合の花が風になびいてゆらゆら揺れる様子がなんとも美しい。
 シャクヤクは立って、ボタンは座って、百合は歩きながら見ると一番美しい姿に見える、という事の例えのようです。
 これらの花は4月、5月、6月と順番に開花します。
 女性としては、いつかそんなふうに呼ばれてみたいものですね。

御園 和穂  
(14/05/01掲載)  

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